(写真と本文はまったく関係ありません)
名店と言われたカレー店のお話。
今はもうお店は無いのだが、カレー業界の中でも尊敬される大先輩のお店として伝説になっているカレー店。
そこのオーナーシェフにインタビューさせてもらったのは6年前のこと。シェフがもうお店をほぼ閉められた状態の頃だった。
お店は地元にあったので、僕も高校生の頃に数回だけおめかしして行ったことがある。40年くらい前のことだ。
初めて行った時、料理は綺麗な白い皿に盛られて出てきた。普通のカレーライスではなく、何かしら“本格的なインドカリー”だったのは高校生の僕にも理解出来た。
洗練された高級感のある店内。フレンチのコース料理が出てきても違和感のない雰囲気だった。
インタビューでシェフからお聞きした中で印象に残ってる話がある。
基本的には良い素材を使って手間をかけて美味しいと言ってもらえるカレーを作ればお客さんはもちろん増える。そして、お客さんが増えていけば、ある時点でお店としてはそれに対応できなくなる。行列が出来たり、入りきれないお客さんを断ったりと。
それは仕方ないことだし、嬉しい悲鳴でもあるわけだが。
こちらの店が人気店になった時に
人気が出たから値上げして儲けてやろう、という短絡的な理由ではない。値上げした分は、原価をしっかり上げて以前よりも手間をかけたシェフが考えるさらに美味しいカレーを出すということなのだ。
すると「お客さんの数は一旦は減るのだけど、それでも来てくれるのは、本当に私のカレーが食べたい人なのだよ」
さらに美味しくなったカレーは評判になりまたまたお客さんが増えてくる。
「そうなったらまた価格を上げたのだよ。そうすることで私も作りたいカレーをどんどん追求出来る様になった」
そしてまたお客さんは一旦減るが、しっかりついてくる濃いお客さんだけが残る。そうなると、お客さんというより、もう、シェフのファンだ。
売上的には客数が減っても単価が上がっているので全体が減ることはない。
長いお店の歴史の中でシェフはこれを2〜3回繰り返されたらしい。
お客さんを絞り込みファンを増やしていく作業だ。
ファンは関東や関西。さらには外国にも。九州に来たら必ず寄る。わざわざこのカレーを食べたいために九州に来るというファンもいたらしい。
昨今、人気カレー店には行列が出来る時代。それでも価格を上げずに手間暇かけた美味しいカレーを出されている店もたくさんある。とても素晴らしいしありがたいことだと思う。
しかし本件のカレー店シェフの話を聞いた時、すごく合点が行ったのを覚えている。
シェフは美味しいと思う究極のカレーを追求したい。それには原価がかかるから販売単価も上げなくては実現出来ない。そうするにはどうしたら良いか。それが良い循環で実現出来たケースだと思う。
シェフもやりたいことがやれて幸せに。そしてファンはもちろん幸せに決まってる。というか、さらに予算を上げてもシェフが作る次のステージのカレーを楽しみにしていたのではなかろうか。
カレー店だから珍しいケースだと思うが、寿司店やフレンチ、イタリアンレストランでは当たり前のことかもね。
しかし、インドカリー専門店でそれをされてしっかり最後までファンを惹きつけてお店をやられてというのはとても納得させられたインタビューだった。
お店の経営にもいろんな価値観があって正解もたくさんあると思う。
しかし、客を絞り込むことにより、より濃い関係性のファンと付き合うことはお店も幸せになるというのは、僕にはとても共感できた。
今はもうお目にかかることは出来ないけど、あの時、お話を聞けただけでなく数十年ぶりにシェフのカレーをいただけて嬉しかった。
ありがとうございました。
最後にひとつ、カレーを美味しくするにあたってのこだわりを聞いた。
「ライスの炊き方だよ。カレーの美味しさはライスで決まると思う」って。
まさに。
※「福岡のカレー界のためになるならば」とお話をしていただいたことなので時間は経ちましたが公開させていただきます。しかし、今となってはご本人に文章の内容の精査をしていただくことが出来ませんので、あえて店名は控えさせていただきます。